§2.第二の経営者人生を後進の育成に注ぐ
企業の社会的責任(CSR)の遂行
昨今国内外では、大手企業の不正(社会規律違反)が続出し、役員によるその場しのぎの真実隠蔽(ごまかし)、担当者の責任逃れ(うそつき)という「公の器」としてはあるまじき言動が世間の叱責にさらされています。当社は、「会社は社会の公器である」と掲げて、マイカンパニーからの脱却、アワカンパニー、ユアカンパニー、そしてパブリックカンパニーへと脱皮を繰り返しながら変革してきました。一方、『企業の社会性(ソシオ・カンパニー)』を重視し、企業統治能力(コーポレート・ガバナンス)の向上と企業倫理(コンプライアンス)の遵守の姿勢を貫いてまいりました。良い会社とは、大きな目標や確かな経営理念を持ち、社会に貢献していくことによって、それが社会に認められ、信頼が実績となり、評価されるものです。

私は経営者の責任を、《特》+《4》+《1》と思っています。《特》は「得意先への仕事の責任」、《4》は「社員への生活保証(給与)」、「役員への生活保障(報酬)」、「株主への利益還元(配当)」、「社会への奉仕(納税)」、最後の《1》は「イノベーション(経営革新)」と分類していましたが、これに「社会貢献活動」をプラスすべきだと考えるようになりました。
社会貢献への取り組み
近年日本国内の企業の廃業率は、創業率を上回っています。経済再生、新産業の創出の原動力となるものが、起業家やベンチャーであり、「ベンチャーの経済」から「ベンチャーの社会」へ変化した時、良好な経済の循環がおこります。
1997年3月の社長退任を機に、これからの第二の経営者人生を考えたとき「広く社会の支持を得て事業活動を行い、世の中の人と金を借りて事業を起こし、成功している経営者は、次世代の起業家を育てなけない。それは、経営者として社会的責任の一つである」と考えるに至りました。というのは、経済の循環機能が活性化するためには、新しい会社が生まれ続けなければなりません。そして、経営を教えることができるのは、経営を体験した者のみができることだと感じたからです。これこそが、私の新たなる「使命」「生きがい」であり、事業を育てることは子供を育てることと一緒で、自分が育てた人間や会社が成長した時に喜びを感じます。
創業して新しい事業を営み継続することは、創業する以前に考えていたことよりはるかに大変なことです。私が創業した当時は、技術力はない、財産はない、信用もない、人脈もない、結果仕事の注文もない、借入もできない・・・の無いないづくし。そんな中、一番欲しかったものはと言うと、『経済と精神の物心両面での支援』でありその『支援者(メンター)の存在』でした。器と金と理論だけでは、事業も人も育ちません。精神面からも実務面からも支援をしますが、それは、病人に漢方薬を与える程度のことで、本当に求められているのは人材や経営ノウハウです。「魚を欲する者に魚を与えず、魚のとり方と教えるべし」ということです。
ちなみに、会社が伸びないのは社長の器に問題があるからです。器とは人徳であり、人徳を高めるためには自己を客観視する厳しさが求められます。時代や環境の変化に立ち向かうバイタリティとイノベーション意識を持ち、真実を追究し続ける、高い志を持った若い起業家を育んでいきたいと思っています。
このようなことから、これまで私は、エンゼル投資を行ったり、インキュベーションセンター(第三セクター)の社長に就任(現退任)して日本で初の配当を払う第三セクターに育て上げたり、日本国内外の大学に松井奨学金を設立したりしてきました。現在も約20件のベンチャーを応援しておりますが、これらの活動の集大成として、ベンチャー支援のための財団法人「起業家支援財団」を2007年(平成19年)3月に設立、理事長に就任しました。創業したてのベンチャーや、第二創業をめざす経営者には、経営の相談窓口となってノウハウを伝授するほか、奨学金制度、起業家育成塾、アントレプレナー教育、ベンチャー起業家の表彰などに取り組んでいます。

「ふれあい自然塾」ニュージーランド研修(2006年12月)
また、家族間を含めて、人と人とのふれあいや自然とのふれあう機会を失いつつある昨今、それゆえ社会のモラルが低下したり犯罪が増加したりといった現象が多い中で、2006年(平成18年)11月には、内閣府の認証を得て特定非営利活動法人(NPO)「ふれあい自然塾」を設立しました。「自然と人間の共生、人と人とのふれあいから人間本来の姿を取り戻そう」という趣旨の団体で、青少年やその家族に、自然体験の中から、自然と社会の恩恵を感じ、協調性や自立の精神を高め、生きることの大切さを体感できる場を提供するものです。
アルプス技研が今日的な社会的責任(コーポレート・ソーシャル・リスポンシビリティ)をしっかりと果たしていくという意味で、当財団を積極的に後押ししていることは言うまでもありません。
「豊かだから与えるものではない。与える心があるから豊かになる」。私なりの理念です。
若き世代へ贈る言葉

私の40年に亘る経営者人生は、ピンチの連続でした。創業時=全く仕事がない、オイルショック時=廃業の危機、そして株式公開の時・・・。「なぜ、俺ばかりがこんな目に遭うのか」と、大変落ち込んだこともあります。しかし、逆境を乗り越えると、そのトラブルが不幸ばかりを運んでくるとは限らない、ということに気付きはじめたのです。前に越えなければいけない障壁があれば、無我夢中でそれをよじ登り、一度上りつめてしまえばその景色に 感動して、不幸や不運だとは思わなくなります。登山家が更なる高みに向けてチャレンジし続けるように、自然により高い目標を自分に課すことができるようになったのです。
「トラブルを避けるな。むしろ喜んで受け入れろ。」−ウェルカム・トラブル、ウェルカム・プロブレム−
ひがみや嫉妬、ねたみの心を捨て、「今に見ていろ、俺だって、俺に期待してくれている人もいる、世の中は正しいんだ・・・とプラスのエネルギーを発し続けること。自分の理想、志、夢、理念、ビジョンと言われる高い志を追い続けて、決してあきらめないこと。トラブルや無理難題こそが自分を成長させてくれる、人生を面白くさせてくれるのです。危険に遭遇したら人の後ろに回り、困難が生じたらすぐにあきらめてしまう、そんな人生ではあまりに虚しいではありませんか。
一回限りの人生、ハングリーな心で失敗を恐れず、思いっきり生きてみる・・・。私は自分の人生経験から得たこの考え方を、今懸命に生きている若い人たち、経営や人生のどこかでまさに逆風の真っ只中にいる方々に、勇気の源として贈りたいと願っています。
▼著書
○「どろまみれの経営」(株式会社アルプス技研社誌)
○「人が未来」(相模経済新聞社刊)
○「めざせ日本のビル・ゲイツ 起業の心得」(産能大学出版部刊)
○「ウエルカム・トラブル 逆境こそが経営者を強くする」(東洋経済新報社刊)
○「逃げるな、驕るな、甘えるな!」(日経BP社刊)
